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晴れ渡った空が憎らしいほどだった。青竜は背後から刺さる視線を打ち消そうと懸命に平静を装い進む。
『お一人ではありませんよ。私はあなたの叔父にあたるのですから』
まるで操り人形のようだった。己の意思もなく、言葉が口から零れ落ちていった。脳裏に由稀の驚いた顔が浮かぶ。青竜は失態に眉を顰めた。
道に人はなく、静まり返った街の中に規則的な靴音が響く。
坂を下り始めて、青竜はようやく後ろを振り返った。聳える坂に、世界を阻まれる。それは彼にもう一つの空との隔たりまでも連想させた。
『死んでまで負けたいのか』
上から、強い陽射しが照りつける。額に、泥のような汗が浮いた。耳にうるさいほどの鼓動に、青竜は思わず足をとめた。
慎重に大切にと、何よりも優先してきたものが、自分の弱さによって一瞬で足場を見失った。予想外を計算に組み込めなかった自分に非があるのか、それともとっさの状況に対応する能力に欠けていたのか。考えたところで、彼に落ち度があったことは確かだった。
地面からの照り返しに、青竜は鋭い目を細めた。頭の奥で、針が貫通したような衝撃が響く。
『利口と驕る前に、一度くらいは限界を超えてみろ』
記憶が彼をなじる。目を伏せると、瞼の裏に閃光が走った。
鋭く、鳥が鳴く。
心臓を掴まれるような感触に、青竜は急いて空を仰いだ。
視界を埋める、青。
目が合う。
『お前の命など、いつでも返してやるぞ』
屋根伝いに覗く光が、溶けて消えた。
青竜はとっさに口元を押さえて、道の端に寄った。体の中から、異物が流れ出す。自分自身が空っぽになるまで、青竜は吐き出し続けた。次第に声が枯れ、尖った咳に襲われる。首を絞められるような痛みに、彼は思わず顔を歪めた。
「いつになれば……っ」
痛みは傷を呼び、萎縮した心が悲鳴をあげた。
「私を認めるんですか……」
声はもう、音になっていなかった。
自分が他人より秀でているなどと思ったことはない。だから彼の強さに惹かれ、疎んだ。羨望の気持ちが増すほどに、青竜の体には黒い霧が立ち込めた。
「あなただけが、できるんです」
自分では消せない霧を、彼だけが吹き消してくれた。
風になびく空色の髪が、人を寄せ付けない細い背中が、憂いを帯びた青磁の瞳が、青竜の自尊心を奮い立たせる。
自分の命は、彼と共にあるのだと。
彼のためにあるのだと。
青竜は掴むように壁に手を突き、足を引き摺り始めた。
前に進んでいるのか、ただ同じ場所で足踏みをしているのか、それすらも彼にはわからなくなっていた。
何よりも心を占める叫びが、体の隅々までいきわたり、まるで肉体を構成しているかのようだった。
「久暉さま」
何度となく呟いてきた名が、青竜の存在を彼自身に説き伏せる。青竜は冷や汗を拭い、薄く笑った。
「なんて傲慢な人だ。どこまで私を削げば、あなたは満足するんですか」
由稀に重なった空色の瞳。相手を捕らえて離さない強さが、青竜を憎悪で埋め、同時に安定をもたらす。立ち止まり見上げた空からは、すでに鋭さが失せていた。かわりに、張り裂けそうなほどの寂しさが敷き詰められている。肌が粟立つような色感に、青竜は姿勢を正して敬礼を送った。
底の見えない昏い瞳に、不敵な綻びが漂う。
「あなたの悔しがる顔が早く見たい」
裂けて落ちてくる空は、全て受け止めよう。
それでも零れ落ちるなら、あなたの全てを繋ぎとめよう。
遠く見える空も、手を伸ばせばいつかは触れられる。
青竜は、再び歩き始めた。
誰にも邪魔されない強さで。
この空を守るため。
(2005/07 8000HIT REQUEST)
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